松田聖子さん「未来の花嫁」について語ります。作詞は松本隆さん、作曲は財津和夫さん。
1982年発表のアルバム「Candy」に収録されています。高校生だった私はクラスメートから借りて聴きました。当時は聖子ちゃんのアルバムが出るとクラスで貸し借りが飛び交ったものです。
この歌は、友人の結婚式に参列したカップルの女性視点で歌われます。
空カン ひきずって
あの娘 彼と車にのるの
花びらを散らして
鐘が鳴り響くわ
あなたはネクタイを
ゆるめながら 退屈な顔
私たちの場合
ゴールは遠そうね
友人のウエディング姿を心の奥で羨望しながら、隣の彼の退屈そうな顔に落胆と焦りと苛立ちがない交ぜになる彼女。次のサビでこう歌います。
プロポーズはまだなの
ねえ その気はあるの
瞳で私 聞いてるのよ
高校生の私にはこのサビは衝撃でした。えっ、女性からこんなことを言ってもいいんだ・・と怖いものを見たような気持ちになって、聖子ちゃんみたいな可愛い女性だから許される台詞だよなあと、可愛くもなんともない地味な自分には一生口にすることのない言葉だと思いました。
今年、松本隆さんのトリビュートアルバム「風街に連れてって!」を聴きました。宮本くんが歌う「SEPTEMBER」目当てでしたが、収録曲の中では「風をあつめて」以外はリアルタイムで聞いた懐かしい曲ばかりです。
「SEPTEMBER」は男性の気持ちが自分から離れていくのに気がついている女性の歌ですが
セプテンバー そして九月は
セプテンバー さよならの国
ほどけかけてる 愛のむすび目
涙が木の葉になる
この後にこの女性が何を言うかというと
逢ってその人に頼みたい
彼のこと返してねと
でもだめね気の弱さ 唇もこごえる
「彼のこと返してね」、ああ、これは「プロポーズはまだなの」と同じだ、女性の本当の気持ちなんだとはたと気がつきました。他の女性に魅かれていく彼に気がつきながらもどうにもできなくて、別れを受け入れるしかないとわかってはいるけれど、彼やその女性を責めたりなじったりする言葉で女性の心を表現するのではなく、彼を返してほしいというこの女性にとって一番大事な望みが描かれている。
ふたりの女性は直接は言わない。言わないけれど心で思う本当の気持ちは怖くて厳しい。そもそも、「赤いスイートピー」でも「ちょっぴり気が弱いけど」と男性を見る目は甘くはない。
高校生の頃にはただ驚くだけだった「未来の花嫁」も、自分の本当の気持ちを知ってそれに向き合って自分の言葉で語ってよいのだという道標だったんだなと今は思えます。なにより、女性を描くことに揶揄がない。適齢期の女性の焦りを面白おかしく描こうと思えばできると思う。でも、そんな歌が人の心に届くはずもない。人の気持ちの核心を描く偽りのない歌だから歌い継がれてきたのだと思う。どの時代にもいい歌はあるけれど、自分はこういういい歌を聞いて育ったんだな、と時代の巡りあわせに感謝をするばかりです。
では、また。