槿の国のノラ

二月になりましたね。今回は韓国ドラマについて語ります。

最近見た中で印象に残ったのは「2度目の二十歳」(2015年)です。

チェ・ジウ主演で役名が「ハ・ノラ」。ノラ、つまり、これから「人形の家」をやりますよ、この主人公の自立の話ですよ、と宣言しているのだと思いました。

ノラは高校生の時に大学院生の夫と出会い、妊娠を機に高校を辞めて夫の留学についていき、ずっと主婦業をやってきた。夫はノラに魅かれて結婚したものの、20年も経つと、大学教授の自分と同等の「会話ができない」から離婚したいと言う。ノラは夫と会話ができるようになりたいと一念発起して勉強し、大学に合格する。

大学では教授になっていた高校時代の友人と再会し、昔の自分、夫と出会う前の自分はどんな人間だっただろうかと考える。

夫に否定され続け反抗もできなかった自分にも気がついて「夫は妻の保護者で指導者なんだ」と言われても、その考えはおかしいと反論できるようになる。

というような筋書きですが(ネタバレは避けてます)、深刻になり過ぎず、基本ラブコメ路線なので、気軽に見ることができる佳作ではあります。

が、この十数年で韓ドラもここまで来たかと思ったのは、「妻は夫のもの」という発言を批評的に描いていたことです。

「がんばれクムスン」(2005年)では「結婚したからおまえは俺のものだ」、「宮」(2006年)では「結婚したら妻は夫のものです」という台詞があり、かなり仰天したのですが、この段階ではこの台詞はこのまま、なんの意味付けも批評性もありませんでした。

こういう脚本が素通りすることから考えても韓国の男尊女卑は明らかで、現実には今でも妻を所有物と思う男性もおそらくいるのだろうと思いますが、ドラマの世界は、このハ・ノラの物語のように確実に変わってきたと感じます。最近ブームになった「愛の不時着」(2019年)も男性が女性の意志を尊重していると評判になっていました。

また、「真心が届く」(2019年)というドラマでは男性が女性に「俺を抱きしめてくれ」「なぐさめてほしいんだ」と言っていて、自分の弱さを率直に伝える台詞にしみじみ感動したものです。この男性は検事で、仕事で困難な状況に立たされてしまったためにこういう弱音を吐くのですが、女性も同僚の検事なのでその大変さを十分に理解した上でハグしてあげるのです。「何もわからないけれど受け入れてくれる聖母のような包容力」という男性に都合のよい女性像ではないところがいいです。

 

韓国ドラマの静かな変化を感じ取れるくらいには韓流にのめりこんできたのですが、一番没頭していたのは2006~2011年頃で、仕事から帰ると朝鮮日報とエンタメコリアというサイトを隅々まで読み込み、韓ドラの感想ブログを読みまくり、レンタルDVDでドラマを見まくり、ipodでドラマのサントラを聴きまくり、NHKハングル講座を見聴き倒していました。1日じゅう韓国語を聴いていたい、聴き込みたい、聴き取りたいと思っていました。

段々と落ちついてきて、今ではドラマは月に1、2本、ハングル講座はテレビを流し見、ツイッターで若い子さんのつぶやきから最近のkpopスターの動向を知る日々です(主に誕生日と入隊除隊情報)

朝鮮日報で一番印象に残っているのは、kpopが世界新出を始めた頃、あるアイドルグループの歌について「こんなに中身のない歌詞でいいのか」と書いていたコラムです。「せっかく世界の人々が聴いてくれるのに擬音語ばかりで意味のない歌詞でいいのだろうか」という趣旨でしたが、韓国は音楽誌でもない一般の新聞でこういう意見が普通に語られる社会であり、詩に対する敬意のある文化なんだなと思いました。歌詞について意見を述べること自体が好意と敬意の表明なんですよね。このコラムは擬音語の多い歌詞を否定しているわけではなく、言葉の力を信じているから「もっと良いものを見せてくれ」と期待しているのであり、より心に響く言葉や詩や歌詞を求めるのは普通のことだという認識が前提にあるんだなと思って読んでいました。

ドラマや歌を通して韓国という国を少しでも知ることができたのはとても幸運だったと思っています。自分が韓国について何も知らなかったこと、知ろうとしていなかったことを知り、まだ私が知らない国にも面白いドラマや良い歌があるんだろうなと推測できる余地が持てるようになりました。

 

 

今回は、私がエレカシにアデューしている間にいかに韓流に入れ込んでいたかという話でもあるのですが、本当にエレカシのことは日常的にはまったく思い出しもしなくて、でも冨永くんと宮本くんの病気のニュースはキャッチして黙々と読みました。ただほんとうに黙々と、命に別状はなさそうかな、大丈夫そうかなと思いながら。復活の野音もなぜか日付を認識していて、今日は野音だなと空を仰いだのを覚えています。

エレカシの40代をまるっと見ていないことになりますが、脂がのってさぞやカッコよかっただろうと思います。でも、ずっと追いかけていればよかったとは思っていなくて、むしろ韓流をぐるっと見渡してもなおエレカシが一番いいな、宮本くんが一番好きだなって思ったんだからいいじゃないって感じです。

宮本くんには「愛の不時着」でIU(アイユ、と短く読みます)が歌っている「Give You My Heart」を捧げます。「あなたにあげるものがないから 私の心をあげます」という歌です。韓国ドラマで培ったパッションで今年も宮本好き好き言って参りますのでよろしくおつきあいくださいませ。

 

 

では、また