ジョバンニは波打ち際でボタンを拾う

さて、米津玄師さんの新アルバム「STRAY SHEEP」の感想です。

 

一番好きなのは「カナリア」です。ド少女漫画だけどメロウになり過ぎず、愛の希望を感じさせる歌。

 

 

いいよ あなたとなら いいよ

二度とこの場所には帰れないとしても

あなたとなら いいよ

歩いていこう 最後まで

 

 

この「いいよ」という言葉のちょっとズルズルしたニュアンスが米津さんの個性かもなと思います。「さあ!君と僕とで歩いていこう、この道を!」というのがハキハキした表現だとして、米津さんはどこか半泣きテイストだと思います。

私は最初この一人称を女性だと思って聴いていたのですが

 

 

転げ落ちて割れた グラスを拾うあなた

その瞳には涙が浮かぶ

何も言わないまま

 

 

とあって、あれっ?男の人が歌ってるの??と気がつきました。別に野郎がコップ割って涙ぐんでもいいんですが、この歌詞だとコップ割ったのは女性のようですね。

私の耳には、米津さんの性別は男女の割合が4対6ぐらいに聞こえるんですよ。私には半分以上女の子に見えているんですよね。

 

さて、本題です。このアルバムの中の「優しい人」について語ります。

 

 

気の毒に生まれて 汚されるあの子を

あなたは「綺麗だ」と言った

傍らで眺める私の瞳には

とても醜く映った

 

 

周りには愛されず 笑われる姿を

窓越しに安心していた

ババ抜きであぶれて 取り残されるのが

私じゃなくてよかった

 

 

思い浮かぶイメージとしては、いじめられている誰かがいて、いじめられている人をかばう(?)か何かしている「優しい人」がいて、その光景を見ている人が「自分じゃなくてよかった」と言っているのだと思います。この見ている人は

 

 

頭を撫でて ただ「いい子だ」って言って

あの子へ向けるその目で見つめて

 

 

と言うんですよね。

米津さんの以前のアルバム「YANKEE」に「花に嵐」という歌があります。

 

 

わたしにくれた 不細工な花

気に入らず突き返したのにな

あなたはどうして何も言わないで

ひたすらに謝るのだろう

 

悲しくて歌を歌うような

わたしは取るに足りなくて

あなたに伝えないといけないんだ

あの花の色とその匂いを

 

 

悪戯にあって 笑われていた

バラバラにされた荷物を眺め

一つ一つ 拾い集める

思い浮かぶあなたの姿

 

はにかんで笑うその顔が

とてもさびしくていけないな

この嵐がいなくなった頃に

全てあなたへと伝えたいんだ

 

 

花 あなたがくれたのは 花

 

 

これは「優しい人」がいなくて、いじめられている人とその人に差し出された好意を拒んだ人の話。自分はいじめられている人を傍から見ている。加害に同調もしていない一方で助けもしない。自分は相手からの好意を「不細工な花はいらない」と突き返した。後から「あれは好意だったんだ、自分こそが気付かずにいたんだ」と後悔して、「あなたに伝えないといけない、自分には花を受け取るだけの度量がなかった」と言っている。でも伝えたいのは「嵐がいなくなった頃」。嵐の最中に向かっていくとは言っていない。

この世界観がとても気になっていたんですよ。今回のアルバムを聴いて「優しい人」でも同じモチーフが出てきたから、米津さんは何かここに引っかかるものがあるのだろうなと思います。

私には、人間関係強者の視点に思えます。力関係の強弱ではないと思う。物事を傍で見ている人は特段強くもないし弱くもない。でも、「不細工な花」「とても醜く映った」なんてことを言う人間は弱者の立場ではないと思う。ここのニュアンスの捉え方が難しいなと思っているのですよ。

「優しい人」では、いじめられている人をかばっている人に対して「その子をかばうだけじゃなくて自分のこともいい子って言ってよ」とちょっと甘えている様子ですよね。

やっっかましいわ!と思ってしまいます。作品世界だからまあいいかと思うけど。あなたはあなたでいい子って言ってあげるけど、あの子の件とは別件でしょ?窓越しに見てるくらいなら出てきて一緒に戦ってよ。と、私が「優しい人」なら言うなー、と思った(既に優しくない)

今から30年後くらいには、米津さんも窓から飛び出して「さあ、僕が助けに来たよベイビー!」とか陽気に歌う日が来るのでしょうか。嵐の中で「君がくれる花ならば僕はすべて受け止めるよ!」とかね。

 

ともあれ、聴いてて楽しかった。「カムパネルラ」は中原中也の「月夜の浜辺」も織り込まれていて、文学が控えめに咀嚼された感じも好みです。「STRAY SHEEP」というと「三四郎」だし。曲調は「感電」と「迷える羊」が好きかな。まだまだ聴き込みます。

 

 

 

ではまた。