「おっさんずラブ」最終回を迎えて(ネタバレます)

大満足の最終回でした。このドラマを世に送り出してくれたすべての方に感謝したいです。

第1回から見直してみると、2回目くらいまでは、単に気のいい不動産屋さんのお兄ちゃんの話と言えなくもない。「人と街が好きじゃないと営業はできない」など春田がちゃんと仕事をしている姿も垣間見える。それが、回が進むにつれて怒涛のラブストーリーに転がっていって、最終回のふたりの海辺での紅白ハグ(いや、お衣装が赤と白なので)ではあまりの幸福感に泣けてしかたがなかった。

 

私は春田を見ていて「この人、誰?」と思った。もちろん田中圭という役者は知っている。でも、春田を演じているこの人は、誰なの?田中圭ってこんな人だった・・・?と問いかけずにはいられない。

スターの挨拶の常套句として「次の作品では新しい姿をお見せできるように頑張ります」というのがある。田中圭は、本当に新しい姿を見せてくれたのだと思う。私のように「知ってはいるけれど」程度の視聴者をくぎ付けにしたのだから。これからももっと見たいと思わせてくれたのだから。

 

林遣都は・・・遣都くんは・・・ちょっとマジで怖い。嫉妬の表現としてテーブルの下で春田の足をつねったり、春田の作ったものなら牧は食べるだろうと餅粥を食べたり、自分の過去の恋愛が「気になる?」との小悪魔発言が、すべてアドリブって!!!

林遣都の魔性を見たというか、単に今まではこの魔性を引き出す役柄ではなかったのだろう。「銀二貫」で魔性はいらないよね。こんなに恋に身を捧げる役柄はまったくイメージしていなかったので牧のキャラクターはやはり「新しい姿」だった。暗く重く熱い気持ちが底にあって、普段は表に出さないけど、いざという時にゆらゆらと立ち上ってくる。それが「春田さんなんか好きじゃない」だったりするので、単純な春田にはとてもわかりにくい。

 

吉田鋼太郎さんは「おまえが俺をシンデレラにしたんだ」の風圧がすごかった。役者さんは、脚本を手にした時にどういう気持ちになるのだろう。大ベテランになった今、こんな乙女台詞を言う日が来ることを予見できていただろうか。年若い制作陣からの挑戦状のようにも受け取れたのではないか。

私自身が黒澤夫婦の世代に入るからか、若い人との関わり方も興味深く見ていた。マロのような男の子は希少だ。蝶子さんをひとりにしないためのやさしいフィクションだと思う。

最後に部長が春田の手を放したのも、若くはない故に決断できたことだと思う。自分の気持ちに正直でいたいが、若い人たちの未来は自由で明るいものであってほしいのも本音なのだ。春田が自分に流されているだけだということは、部長は最初からわかっていて、でもこの恋に夢を見ていたかった。はるたんが戻るべきところに戻る日が来たら、せめてみっともない真似はしないでおこう。

部長のとった行動はパワハラ満載だが、恋の幕引きはご立派だったと思う。蝶子さんの健やかな様子を見ていると、本当のパワハラ人間ではないということも伺える。

 

最終回の春田の「牧が好きだ」から「ただいま」「おかえり」に至るまでが白眉だと思う。BGMが一切なく、ただ、春田と牧がそこにいる。ふたりが生きて愛し合っているだけ。それがこんなにも心を揺さぶるものだとは思ってもみなかった。

田中圭さんも林遣都さんも、よく泣いた。春田と牧を生きることは心身の底から共鳴し合う出来事だったのではないか。おふたりとも、ふたりを生きてくれてありがとうと心からの感謝を伝えたい。