「ホットロード」再読

米津さんの新曲「感電」を聞いてます。(ちゃんとホットロードにつながりますので、このまま読み進めてくださいませ)

「肺に睡蓮 遠くのサイレン 響き合う境界線」このフレーズ、韻を踏むといった生易しいものではなく、言葉の持つ音の連想が止まらない人が思わず吐き出さざるをえない表現だと思います。

母音を取り出してみると

肺ai (睡)蓮en サイレンai en (境)界ai 線en

言葉だけでもこれだけのリズムを生んでいる。この言葉のうねりがとても好きです。

 

新曲を聴くたびにその言葉のひとつひとつがとても大事に思えて、私の米津愛はミリも減ってないですし、書きたいこともまだまだあるのですが、でもね、ケンちゃん、わかってちょうだい。宮本のおじさんのことはね、あなたが生まれる前から好きなのよ。宮本のおじさんの話が多くなるのは仕方ないの。(おかあさん)(最っ低)

 

という脳内劇場を展開したところで、はた、と思ったのですが、これは「ホットロード」の和希ちゃんのママですよね。(話つながった)

母と子のふたり家庭、夫とは死別、母親の恋人は若い頃から好きだった人。

ホットロードを最初に読んだ時、このおかあさんのことは幼稚だなと思ってました。恋人のことを若い頃のまま「鈴木くん」と君付けで呼んでいて、成長してないんだなと思った。

でも今、私も宮本くん宮本くんて呼んでるがな!!と気がついた途端に、ちょ、いや、ちが、えー!そんな、いやー!!!と動揺いたしました。

宮本くんて書くと、ファンになった当時の胸のときめきが蘇るんですよ。宮本さんて書く時はちょっと客観的な気分の時。宮本様はクスクス笑いながら書いている時。宮本って呼び捨ての時が一番気持ちが深い。という書き分けは一応意識してやってるんですが、君付けは傍から見ると幼稚か!幼稚だな!気がつかなかったよ!

 

それで、ホットロードをこのおかあさんの目線で読み直してみました。

 

 

ママは一円だって鈴木くんからもらってないわ

なぜそんな言い方するの?

なぜみんなして

そーゆーきたない見方をするの?

 

 

あたしたち 高校の時からずっとずっと好きだったのよ

なぜ?なぜなの?

なぜ好きなのに離れさせられなきゃならないの?

どぉして・・・

別々のひとと結婚しなくちゃならなかったの?

なぜみんなして妨害するのよ?

 

 

 この台詞を読んで、この人は「どうしてこれが私の人生なの」って思ってるんだなあ、とようやく気持ちに寄り添える感じがしました。

「みんなして」がポイントですね。おそらく、双方の親や親戚など周りの人間みんなに鈴木くんとのことを反対されて、でもなんらかの決意か諦めかがあって別の人と結婚した。この夫が亡くなっていなかったら、新しい愛情を育めたかもしれないけれど、結局娘と自分のふたりだけになった。鈴木くんへの気持ちが完全に解消されないまま。

この場面はおかあさんと和希ちゃんのふたりだけなのですが、おかあさんは過去に足踏みしたままなので、目の前の若い命に気がついていない。

それで和希ちゃんはグレにグレていくのですが、終盤、おかあさんはこう言います。

 

 

鈴木さん・・・と一度会ってほしいの

あなたにどういう人か見てほしい

今がいやなら何年先でもずっとあとでもかまわない

その上であなたがいやだというのなら

あたしはもう

あの人には会わないから

 

 

 ホットロードは1986年から1987年に発表。コミックスの表紙に象徴されるように、少女漫画には珍しく遠景が多かったこと、その景色の中の人物も小さく顔がはっきりせず、そこから生じる淋しい空気感が他の少女漫画と異なっていたこと、などから、新世代の物語という印象を受けました。

また、それまでの少女漫画の多くが「私と彼」だけのふたりの世界に終始していたところに、親、学校、先生、という子供にとっては鬱陶しいけれど逃れられない相手が全部登場したところも読者を引きつけた要因だったと思います。決して美しくはない日常の人間関係、親も未熟なひとりの人間であるというような話を読者は読みたかったのだなと思いました。

まさか和希ちゃんのおかあさんの気持ちがわかる日が来るとは思ってもいませんでしたが、年を取るとこういうこともあるんですね。

 

米津さんの話に戻すと、8月にアルバム出るそうなのでとても楽しみです。「感電」のMVも見たけど、米津さん元気そうで明るいですよね。また薄暗いところで歌ってたらどうしようと思ってたけど、遊園地で陽気に歌ってて安心した。ケンちゃん、大人になったわね。これでおかあさんも心置きなく恋に生きることができるというものです。老い先短いから人生に後悔を残したくないのよ。あなたはあなたで自分の人生を生きるのよ!(おかあさん)(和希ママとは違う結論)(ほんと最低)