エレファントカシマシ「今宵の月のように」

その日、私はJR湘南新宿ラインを北へ向かっていたのですが、赤羽駅の発車メロディがエレカシの「今宵の月のように」であることを、その場で直に聞いて初めて知りました。なんの前知識もなかったので、その衝撃たるや「よかったねえ!!ここまで来たんだねえ!!」と、テンションダダ上がりでしたよ。5番線が「俺たちの明日」で、6番線が「今宵の月のように」なんですね。

エレカシのメジャーデビューは新宿にあった日清パワーステーションでのライブでしたよね、確か。私は友人と一緒に行ったのですが、目の前にいる同世代の男の子4人を見て、「わー、なんかこの人たち好き」と思ったあの日からずっと好きです。

エレカシの音も声も言葉も虚飾が無くて、私はそこが好きなのですが、無さ過ぎて当初は引っかかりが万人にはわかりにくくて、だから不遇の時期があったのかもな、と今は思うのですが、当時は、何故こんなにいい歌がもっと世の中に広まらないのだろうと思っていました。

だから、「今宵の月のように」がヒットして、エレカシが歌番組に出たり、宮本くんがドラマに出たりするようになって、とても嬉しかったです。特にスマスマに出た時は「天下の木村拓哉と並んで歌って可愛さで引けを取ってないわよ、宮本くん!!」と涙ながらに見てましたよ。

宮本くんの声は、いつも私を振り向かせます。私に向かって歌ってくれるという感じではなく、エレカシがあるべき場所で歌っていると、はっとして振り向くのです。ああ、新曲が出たんだ、とか、ドラマの主題歌を歌ってるのか、とか、宮本くんの声が聞こえたら私は顔を上げて振り向きます、どこにいても、何をしていても。

宮本くんの歌詞は、端正で静かで美しいと思います。奇をてらったところがなく、まっすぐで、聴いていると心が直っていくような気持ちになります。堅固だけれど硬くない、ひらがなが多めだけれどピュア過ぎない、抽象に流れ出さず輪郭をきちんと描くような安定感がある言葉だと思います。

なぜかテレビでの行動は落ち着きがなさ過ぎる宮本くんですが、最初から今に至るまで、言葉の美しい佇まいは変わらないですね。

駅の発車メロディは、そう意識的に聴くものではないと思います。毎日、電車に乗って、仕事に行って、また帰宅して、なんとなく過ぎていく日々の中でなんとなく耳にしているメロディ。日常の中に溶け込んでいるので、駅に着くたび、駅を出るたびに話題にするわけでもない。

でも、そういう日常の中にエレカシの歌があって当たり前の世の中になったんだなあ、いかにもエレカシらしい到達点だなあと、長い間ファンである私にはとても感慨深い出来事だったのです。

言い換えると、エレファントカシマシが世の中を変えたのだと思います。エレファントカシマシという概念を、価値観を、そこに喜びがあることを、世間に知らしめることができたのだと思います。

こんな幸せな地平を見せてくれてありがとう。これからもずっとずっと歌い続けてください。どこまでも飛躍してください。私も陰ながらずっとファンでいますから。