米津玄師「LOST CORNER」の感想です。
アルバムを通して聴いた感想は「引きこもりが外に出た」という印象です。リズムが明るくて軽快。音が軽いのではなく、リズムの描く世界が明るい。
いいなと思った曲は「マルゲリータ」「LENS FLARE」「LOST CORNER」かな。「LENS FLARE」はボーイズグループが踊りながら歌ってもよさそう。
朝ドラ「虎に翼」で毎朝聞いていた「さよーならまたいつか」について語りますね。
「誰かと恋に落ちて また砕けて やがて離れ離れ」ここは、瀬をはやみ岩にせかるる滝川のわれても末に逢はむとぞ思ふ、ですね。滝のような急流、岩にぶつかって砕けて別れてしまったけれど、「さよーならまたいつか」きっと会いたい、と強く願う歌。タイトルが「さようなら」だと重くなる。「さよーなら」というポップな軽さが救いになる。
米津さんの以前の歌「シンデレラグレイ」「Décolleté」は女性一人称の歌だけれども、女性の仮面を被って男性の内面を描いていると書きました。男性のままでは言えないような弱い気持ちを女性に擬態することで素直に吐露できることもある。つまり、まだ女性の内面を描いてはいなかったと私は思う。
「さよーならまたいつか」は女性が主人公のドラマ主題歌として「口の中はたと血が滲んで 空に唾を吐く」「繋がれていた縄を握りしめて しかと噛みちぎる」と、ある種の野蛮さを描く。米津さんのインタビューを読むと、女性の苦悩を傍から見た応援歌にするのは違うと考えたそうですが、女性の内面に立って見渡した世界が「土砂降りでも構わず飛んでいく その力が欲しかった」「貫け狙い定め 蓋し虎へ どこまでもゆけ」「100年先のあなたに会いたい 消え失せるなよ」と、決意と挫折、そこからの不屈の精神であることが興味深くもあり、非常に共感できた。これは私の、私たちの、未来のあなたたちの歌。
そして、「蓋し虎『へ』」なんだね。ここ普通は「虎よ」と呼びかけにするところですよね。「虎になれ」?「虎に続け」?意味はともかく、「~へ」だと方向性を示すイメージなので、続く「どこまでもゆけ」にうまくつながってスピード感は出る。減速しない。でも意味はわからん。うーん、米津さんの助詞使いは何か引っかかるよなあ。
最後に、私は「ETA」(「Ⅿ八七」のカップリング)が好きなんですがアルバムには入らなかったか、とちょっと残念に思っております。シングルも出るたびに聴いていますが、最近は仕事が今まで以上に激務でなかなか感想が書けないでいます。自分の食い扶持に優先的にエネルギーを注ぐのは当然なので仕方ないことですが、できるだけ時間を作ってこの若い才能への賛辞と愛情を書きとめておこうと思っています。では、また。