エレファントカシマシ2022野音

エレカシ2022野音の感想につながる話です。

2018年の30周年さいたまスーパーアリーナと2019新春をAmazon primeで見ていたのですが、どちらも宮本さんが泣く場面があってちょっと引っかかっていました。ライブに通い慣れているファンの方々のブログを読むとステージではまま泣くことがあるとは書いてありましたが、50男が職場で泣いてるんですよね。会社で例えてみるならば、部長が仕事中に泣き出すってことですよ。普通じゃないですよね。さっきまで何か書類投げて怒っていたかと思えば今度は泣く50男。

「ちょ、待って、泣いてるんだけど」

部下はグループLINEで会話を始めるんですよ。中堅社員数名のグループとかかな。

「ええー、なんなの。なんか泣くようなことあったっけ」

「山田は?いないじゃん、どこ行ったの」

「休憩入るって言ってたけど、あ、戻ってきた」

山田くん、三十路に入ったばかりの彼は自分の机に座る間もなく先輩数名に廊下に引っ張り出されると

「宮本部長また泣いてるからなんとかして!」

「山田行け!」

「えっ、なんかあったんですか?クレーム入ったとか」

「部長がクレームで泣くわけないじゃん。わかんないから行けって言ってるのよ」

「いや、いいっすけど・・えー、あー、じゃあ今日飲みに誘いますわ」

「頼むよー、もう情緒乱高下で困るわー」

「俺ひとりでいいんすか」

「行かないよ、やだよ、号泣とかされたら面倒じゃん」

「わかりました。じゃ、明日報告しますね」

退勤後、山田は宮本部長と夜の街へと消えていきました。翌日、出勤するなりまた先輩方につかまった山田は

「楽しかったっすよ、昨日」

「なんで泣いたかわかった?」

「いや、よくわかんないままっす。でも部長歌ったら気が晴れたみたいで別れ際にこにこだったんで」

「は!!??カラオケ行ったの!?」

「はい」

「待て、なんで誘わん」

「だからー、誘ったじゃないですか。俺ひとりでいいんですかって」

「カラオケ行くなら行くって言ってよー!!」

「何歌ったの、何曲歌ったの!?」

「ナイショです。ふふふ」

「ふふふじゃねえ!!部長の歌声独り占めしやがって!!」

「昨日もサイコーでしたよ」

「そうだろうよ!ちっ、今度泣いたらあたしたちでカラオケ連れてくか!」

「もー、部長のことみんな好きなのになんで僕に振るんですか」

「好きだけどさー、あの突然の感情の爆発はさ、ちょっとねえ」

「僕は宮本部長大好きだから突撃しますよ。怒鳴られることもあるけど、好きな上司ってそうめぐり逢えないと思うんで、躊躇したらもったいないですよ」

うるせえ小僧が説教すんな、と先輩方に可愛がられている山田くんなのでした。

 

 

ええと。創作に変換していったけど、だいたいこういうことですよね。特に2019新春の涙は自覚の薄いSOSに見えた。これを宮本の個性と片付けたり共鳴して一緒に泣いたりするだけではこのSOSを救えないと私は考えるんですよ。

私がエレカシ前線に復帰したのが2019年2月で、長いブランクがあったので自分は新規ファンでもあると思っていて、ライブにずっと通っている方たちの感想を読んで学んできました。中には「今日はもう中止かなと思った」と引くくらい宮本くんがキレた時もあったようですが、推測するに、仕事で煮詰まっているけれど道が拓けないでいる、あるいはそう思い込んでいる、かつ一人で抱えている、その解決法がわからない、上手に相談できない、という仕事をしていたら誰でもが陥る状況になっていたにも関わらず、キレること(キレたように見えること)をアーティスト特有の個性として見過ごされてきたのかな、と思った。

これはソロ活動前の話です。ソロツアーは終始ごきげんで成功裡に終わり、風穴が開いたようでよかったなとほっとしました。結局、ソロ活動という「自分がしたいこと」を周りに「相談」して「協力を依頼」するというまっとうな方法で解決ができたということなんでしょうか。

今回の野音ですが、ほぼ真っ直ぐ立っていたような印象を受けました。ガニ股だったり転がりながら歌ったりせず、あの細い美しいシルエットを堪能できました。歌うことに集中していたのではないかな、たぶん。黙々と歌っているという語義矛盾した形容が合うような気がしました。バンドにも集中してましたよね。楽器トラブルにキレもせず歌いながらチューニングしたり演奏を淡々とやり直すのを見てそう思いました。

セットリストは乾いたロマンティシズム、愛情よりは友情、穏やかなユーモアとほんの少しの人生の哀しみという印象だった。この先のエレファントカシマシに何か期待をしていいような、ほの明るい変化と予感を感じる野音だったと思います。

もう泣かなそう。泣いてもいいんだけど、どっちでも好きです、宮本くん。

死ぬまでにあと1回くらいステージ観られたらいいなと思っているのですが、どうかご縁がありますように。ではまた。