モンゴメリ「隔離された家」

新潮文庫「アンの友達」に収録されている短編「隔離された家」について語ります。

主人公はミス・マクファーソン。男性嫌いを自称する48歳のオールド・ミスです。

相手役はアレキサンダー・エイブラハム・ベネット。女性嫌いの一人暮らしの男性。年齢は書かれていませんが、「20年前にあの人の妹が亡くなって以来、いまだかつて、ベネット氏の家の中に入った婦人はひとりもいない」という描写があるので決して若くはないと思われます。

ミス・マクファーソンがベネット氏の家に用事ができて訪問するのですが、この家の犬に追いかけられて裏手から家に入ってしまいます。正面玄関には巡査がいて、この家に誰も入れないように医師から指示されていたにも関わらず、中にいるベネット氏と接触してしまった。

ベネット氏は昨日町の料理店で食事をしたのですが、そこの女中の一人が「疑う余地のない天然痘の兆候をあらわしたのでね、衛生局ではただちに、きのうその家へ行った者を全部、住所氏名のわかった者だけでも隔離したわけなのですよ」

ベネット氏は今でいう濃厚接触者だったのです。そこに何も知らないミス・マクファーソンが訪れてしまったために、彼女もこの家から出られなくなってしまった。男性嫌いと女性嫌いの同居が始まるわけです。

ミス・マクファーソンはマイペースに掃除を始め、料理をし、「アレキサンダー・エイブラハムが話をしないときにはそのまま放っておき、話をするときにはわたしも彼におとらず皮肉を言うことにした。ただわたしはそれをにこにこしながら愉快そうに言った。彼がわたしにたいして心底から恐れをなしているのが見てとれた」

そしてある日、ベネット氏に天然痘の兆候があらわれます。「天然痘の患者を引き受ける町の看護婦はみな、いま、目がまわるほど忙しい」ので、ミス・マクファーソンが看護を買って出ます。「わたしがいくら男ぎらいでも、同胞が餓死するのを見殺しになぞできませんよ」

幸い、ベネット氏は重症化せず回復し、やがてミス・マクファーソンは自宅に戻ります。「近所の人たちは露骨にわたしを避けた。いつなんどき、わたしが天然痘の発病をみるかもしれないと恐れたからである」「わたしはどことも縁の切れた感じだった」

 

ラストは書きません。短いお話なので是非お読みください。モンゴメリのラブコメの中でもかなり好きな終わり方です。

私が最初に読んだのは13か14歳でしたが、ミス・マクファーソンの48歳という年齢をすごく年配の女性だと思ったものです。自分がこの年を軽く越えた今、モンゴメリが書き残してくれた様々な年齢と事情のオールド・ミスの恋と生活を読むことは独身の私にとっては幸いです。どういう人生もそう悪いものではないと思えます。

「隔離された家」での天然痘の描写は、現在のコロナウイルスを巡る状況と似ているのも興味深いです。感染症に対してすべきことは年月を越えてもそう変わらないのでしょうか。

赤毛のアンを下敷きにしたドラマ「アボンリーへの道」では、この「隔離された家」の女性主人公をマリラに置き換えています。ラストは小説とは違うのですが、これはこれで面白かったです。

 

コロナ禍で私の仕事の仕方も変わって、フェイスシールドも鬱陶しくなって、さすがに閉塞感を感じずにはいられない日々、自分の軸を立て直すために私の精神の基本のモンゴメリに立ち戻ってみました。最近NHKで「アンという名の少女」を見たことも影響していると思います。

 

 

 

では、また。