米津ワールドの女の子 その2

今回はアイネクライネちゃんです。

 

 

あたしあなたに会えて本当に嬉しいのに

当たり前のようにそれらすべてが悲しいんだ

今痛いくらい幸せな思い出が

いつか来るお別れを育てて歩く

 

 

10代半ばくらいの女の子のイメージで聞きました。「あなた」への思いをずっと語るのですが、アイネクライネちゃんはかなり後ろ向きです。

 

誰かの居場所を奪い生きるくらいならばもう

あたしは石ころにでもなれたらいいな

 

とか

 

あなたが思えば思うよりいくつもあたしは意気地ないのに

 

だの

 

あなたが思えば思うより大げさにあたしは不甲斐ないのに

 

などとグズグズ言うのを止めません。更には、「あなた」が「あたしの名前を呼んでくれた」やら「あなたの名前を呼んでいいかな」やら、もうそんな人間関係の基本中の基本でまだ躊躇してるわけですよ。10代だとしょうがないかなとは思います。好きな人に名前を呼ばれたらドキドキするし、相手の名前を口にするのも心臓が飛び出るほどの大事件なのもわかります。

しかも「いつか来るお別れを育てて歩く」などと逃げを打っている。10代の考えるお別れは、いつか会わなくなるくらいの意味合いだろうけれど、別れなど気にせずに今を生きたらいいものを、「今痛いくらいの幸せ」を素直に受け止めない。相手の名前もさっさと呼ばない。クライネちゃんはいちいち引っかかってつまずいて、重くてとても面倒くさい。

でも、大人になって大化けするのはこのタイプだと思うのです。

子供の頃から器用で人間関係も上手に立ち回れるタイプは大人になってもそのまま順調で、それは結構なことなのですが、ちょっと面白くないかな、と私は思います。

 

 

お願い いつまでもいつまでも超えられない夜を

超えようと手をつなぐこの日々が続きますように

閉じた瞼さえ鮮やかに彩るために

そのために何ができるかな

 

 

クライネちゃんは「何ができるかな」と考えている。自分は意気地がないとか不甲斐ないとか石ころになりたいとか言いつつも、一筋の道を見出そうとしている。

好きな人に名前を呼んでもらいたい、自分も呼びたい、でも自信なくて思い切って言えなくて、言ったところで応えてくれなかったらどうしよう、いや、応えてくれたって、その先何を話せばいいの?話して失望されたら?退屈だって顔をされたらどうしたらいいの?ああ、もうあたし自分の感情がからまってよくわからない。やっぱり石ころに?いや、ちがうな。あたし本当はそんなこと思ってない。あたしが本当にしたいことは、あなたとただ仲良くなりたいだけ。あなたの話も聞きたいし、あたしの考えてることも聞いてほしい。仲良く、仲良く、話をしたら仲良くなれるのかな。でも、話さないと始まらないか。恥ずかしいけど、笑われるかもしれないけど、おはようって声をかけてみよう。この歌聞いた?私は好きだけどあなたは?そんなくらいから始めてみようかな。ああ、考えただけで顔が赤くなる。大人になったらもっと上手にできるようになるのかな。このドキドキはおさまるものなの?

 

 

アイネクライネちゃんは、からまってもつれた感情の糸を、まずはゆっくりと時間をかけて一本一本丁寧にほどいて、それらをまた一本一本吟味してあらためて編み直していくのです。どんな些細な気持ちも隠さずに大事にするクライネちゃんの芯に、やがてしなやかで強い糸が生まれる。たぶん、その頃には、どんな戸惑いも動揺も受け止めることができる魅力的な女性になっていると思うのです。

この曲はメロディが甘くて華やかで可愛くて、クライネちゃんの前途を祝福しているようにも思えます。

 

 

 

産まれてきたその瞬間にあたし

「消えてしまいたい」って泣き喚いたんだ

それからずっと探していたんだ

いつか出会えるあなたのことを

 

 

 

わたしは何を得ることであらう

わたしは必ず愛を得るであらう

その白いむねをつかんで

私は永い間語るであらう

どんなに永い間寂しかつたといふことを

しづかに物語り感動するであらう

 

 

後の6行は室生犀星「愛あるところに」です。アイネクライネちゃんと同じことを言っていると思いませんか?私は最初にこの曲を聞いたときに、この詩を思い出しました。中学生のときに大好きだった詩です。ずっと探していた愛。わたしは必ずその愛を得る。人生における最初の愛の衝動を歌ったふたつの詩。米津さんと室生犀星、詩人の魂はこんな風に呼応しあうのですね。

 

 

 

 

 

米津ガールズのお話はここで一旦休憩します。大好きなふたりの女の子を書いたので、ちょっと気が済んだかな。

ところで、「BOOTLEG」にはこういう女の子がいないような気がします。私が見いだせないだけかな。ざっくり言うと、「YANKEE」は少年漫画で、「Bremen」は少女漫画。「BOOTLEG」では米津さんは大人の男のひとになった感じがします。背筋が伸びた感。その分、女の子メンタルが薄い。

いや、いいんですけどね。まだ書きたいことはあるし、この前髪重い子ちゃんへの興味が尽きることはなさそうなので、ぼちぼち書いたり書かなかったりしていきます。ファンにできるのは愛を語ることだけですので。

 

 

電車は電気で走れ

私は愛で動く

(by 村山槐多)