米津玄師「灰色と青」の更なる感想?

BOOTLEG、Bremen、YANKEEと聞き倒したので、MVも見てみようかなと思って、ちょっとだけ見てみました。

米津玄師さんに関してまったく何も知らないままにファンになったので、情報過多の時代にこの白紙状態は得難いかもと思って、敢えてインタビューの類も一切読まないでいます。作品とだけ向き合って「誤読」を楽しむ喜び。動く米津さんもほとんど見ていませんでした。

で、MVですが、ええと、その、なんでほとんどいつも薄暗いところで歌ってるの??

電気つけたら?眼が悪くなるよ?というおかあさんモードで見ちゃいましたよ。コンテンポラリー好みなんですかね。もうちょっと「キラキラ光った、パチパチはじいた」感じのも見てみたいかも。

「灰色と青」もねー、歌詞の内容から夜と明け方なのはそりゃそうなんだろうけど

「公園で遊ぶなら昼間にしなさいって言ったでしょ!マサキくんもおうちに帰りなさい!」

「えー、うち、まだおとうさんもおかあさんも仕事で帰ってきてないし」

「だったらうちでごはん食べて宿題するわよ!おかあさんにLINEしとくから。ええと、これからうちに連れて帰ります、と。ほら、ケンちゃん、さっさと立って!」

仕事からくたくたになって家路についてみれば、あれだけ言ったのにうちの子たちは人気のない公園にいて危ないったら。

「ねーねー、おばちゃん、今日もカレー?冷凍しといたカレー?」

「そうよー。冷凍しといたカレーよー」

「わーい、やったー。僕、おばちゃんのカレー大好き」

「ありがとー。あ、既読になった。おかあさん、9時頃迎えにくるって」

ふ、と軽いためいきをついた。今日も働いたなー。足だるいし重い。寝る前にマッサージしよう。私はきっと、とぼとぼとうつむいて歩いていたのだと思う。

「ほら、おかあさん、月。出てるよ」

「え、あー、ほんとだ。出てるね」

「うん、きれいだね」

「きれいね。ありがと、ケンちゃん」

うつむいててごめんね、とは言わないでおいた。これは私の決心のひとつ。うちの子に謝り過ぎないこと。ごめんね、許してね。そう言って楽になるのは私だ。この子じゃない。だから言わないことにした。

 

 

どうして

私の夫は早々にこの世を去ったのだろう

どうして

私と息子はふたりで生きていくことになったのだろう

どうして

これが私の人生なの

擦り切れるほどに繰り返した問いかけを

私は最近ようやくしなくなった

心の奥には暗い火が残っていて

いつまた噴き出してくるかわからないけれど

私は今を見ることにした

私にできることは今の空気を吸うこと

聞こえる声、目に映る景色、子供の頭をなでる私の手

不条理に耐えるために

私は五感のすべてを使って生きる

世の中に残っている愛情を逃さないように

月の光の柔らかさを美しいと思えるように

いつかこの子が大人になって月を見上げたときに

私のことは思い出さなくていい

この夜の帰り道だけでいい

 

 

マサキくんのおかあさんは9時きっかりに迎えに来た。ちょっといい?と小さな声で私に聞く。

「今日も公園にいたんでしょ?」

「そうなのよ。日が暮れたら危ないって何度も言ってるのに」

「あー、やっぱりケンちゃんは口が堅いか」

「?なあに?」

「公園のすべり台あるでしょ。あそこに上ると駅の改札が見えるんだって」

「改札?」

「うん。マサキが言うにはおかあさんたちが帰ってくるのを見守ってるんだって」

「え・・ええー!?なにそれ??」

「私たち、見守られてるらしいよ」

マサキくんのおかあさんはくすくす笑ったが、私は、なんというか、自分でもわからないくらいショックを受けてしまってうまく言葉が出てこなかった。

「で、でも、それは私たちがちゃんと帰ってくるか不安ってことじゃ」

「それもあると思う。地震も豪雨も多いしね。電車も遅れるし。でもいいじゃない。本人たちは楽しそうよ。老いては子に従っとけ、って感じ?ちょっとまだ老いるには早いけど」

「う・・・うん」

そうかあ、そんなこと考えてたのか。どっちかというとぼんやりした子だと思ってたけど、子供ってほんとに成長するんだなあ。なんだ。そうか。

少しだけ肩の力が抜けた私を、息子たちは高校生になるまで公園で見守ってくれた。さすがにもう連れて帰ることはない。

「適当に帰ってきなさいね」

ふたりに声をかけて歩き出すと、ケンはバイトだからと駅へ向かった。マサキくんは

「家まで送るよ」

と隣に並んだ。

「そんなことは彼女だけに言いなよ。おばちゃんは一人で帰れますー」

「おばちゃんのご飯が食べたいんだよー」

「あー、わかったわかった。今日はお肉焼くからたくさん食べてね」

 

私の人生から喪失の影が消えることはないだろう。でも、もっと年を取ったら、この道を私も思い出すのかもしれない。寂しさと苦しさを足元に纏いながら歩いたこの道を、懐かしくすら思える日が来るのかもしれない。

 

 

 

 

 

 

ええと、妄想の極北を少しでもお楽しみいただけましたでしょうか・・・?

おかあさんモードから米津菅田を小5設定にして、「灰色と青」の夜の空気を混ぜてこねて、ぽんっと錬成してみました。おかあさんずには当てている女優さんずがいるのですが、内緒。おのおのお好きな役者さんでどうぞ。

ていうかさ、MVみたいに夜中に公園でブランコ漕いでる20代男子なんて速攻通報されるから、やっぱりさっさとおうちに帰ってね。