「ハレルヤ」フェアグランド・アトラクション

9月に入って涼しくなって「風は秋色」だなあ、すぐ冬も来るよなあ、と思ったところで、フェアグランド・アトラクションの「ハレルヤ」を思い出しました。

 

昔々、初めてこの曲を聴いたとき、歌詞がワビサビだと思ったものです。

 

The lights on the westway go on

A million cars hurry home

An ice cream van shuts off its tinsel bells

Winter won't be long

 

エストウェイの灯りがつづく

多くの車が家路を急ぐ

アイスクリーム売りはベルをしまう

もうすぐ冬

 

 

ここは出だしのところですが、俳句のような簡潔さで、ひとつひとつの単語が澄み切っているように感じます。メロディもきれいだからですかね。ウエストウェイってロンドンの道路の名前なんですね。検索して知りました。

 

それから、サビのフレーズも好きなんですけれども

 

Yes your smile is a prayer that prays for love

And your heart is a kite that longs to fly

Hallelujah here I am

Let's cut the strings tonight

 

あなたの微笑みは愛の祈り

あなたの心は凧のように飛ぼうとする

ハレルヤ 私はここにいる

今夜糸を切って飛びましょう

 

 

英国、凧、というとメアリー・ポピンズを連想するので、私の中ではこの曲を歌っているエディ・リーダーが傘につかまって空から降りてきています。作詞のマーク・ネヴィンは kite とか kiteflyer とか好きですね。

 

そしてこの歌詞の目玉は

 

We'll kiss the first of a million kisses

 

であることは言うまでもありません。そもアルバムタイトルも「ファーストキス」。

英語の語順の美しさといいますか、We'll kiss the first と入って、いわゆる人生初のキス、一回きりのファーストキスを連想させておいて、その後に of a million kisses とつなげることで相手との未来が広がり、はっとさせられるのです。

 

私たちはキスをする

これからあなたとかわすあまたのくちづけの

その最初のひとつを

 

といったところでしょうか。書き言葉では英語は右に右に世界を開いていきますが、日本語は下に下に降りてくるので、円錐を逆さにするイメージで訳してみました。空に向かって大きく広げた腕を空気を抱きしめる感じでゆっくり降ろして閉じていって、胸のあたりでぎゅっとこぶしを握る。最後のひとことに気持ちを結晶化させてすとりと落とす感じです。

 

 

 

英語の語順に初めてぎょっとしたのは、ストロベリーフィールズフォエバーです。

 

Living is easy

生きることは簡単だ、と言っておいて

with eyes closed

目をつぶっていればね、と条件をつけてきて

Misunderstanding all you see

見るものすべてを誤解したままでさ、とたたみかけてくる

 

中学生だった私は「えっ、ひどい」と思ったものです。人生は簡単だと油断させておきながら、どん底に突き落としていく感じ。これが英国のシニカルさなのかしらん、とも思いましたね。

 

懐かしい歌を思い出して、英国の詩情も善き哉、というお話でした。